Chapter 3：
「まち」に賑わいをつくる不動産会社

そもそも、私自身は、“街づくり”というよりも“賑わいづくり”という認識なんです。飲食店の経営者なら、どこで店を開こうか、ここでならできるか、という視点で考えますよね。私は用宗全体を観光地として俯瞰した上で、その構成に必要なものはなにかと考えていくんです。その点で、もともと観光業ではなく不動産業ということは、大きな強みであると思っています。
不動産物件は、すべてが一点もの。いいものを手に入れようと思ったらタイミングも大事で、その場その場で決断していかないと、物件はすぐ他の人の手に渡ってしまいます。だから、当然事業にもスピード感が出てきます。用宗に関していえば、それは私もここに住んでわかったことなのですが、手を加えれば外国からも客を呼べる資源になる趣のある古民家が残る土地が、解体・更地であたりまえに販売されていたんです。だから、早く手を打たなければ、古民家がなくなってしまうという危機感が、“今すぐやらなければ”と、この事業の後押しをしました。
不動産屋は、土地や建物に価値を与えて、街の価値を上げることが商売になります。用宗の前に鷹匠というエリアの開発をして感じたのは、外から人を呼び込むのは、街中だけでは難しいということです。その点、用宗は県外からも人を呼べるポテンシャルを持っています。
例えば海外旅行に出かけて印象に残っている街は、便利にインフラ整備された都会ではなく、人々が普通に暮らす街や、地元の人との会話だったりします。10年前に用宗に引っ越してきた時に、ここは街に近いのに観光地みたいだなと思いました。田舎の海、山の風景が街から短い移動時間で見られ、人々の日常の風景の中を歩ける。例えば京都などは、海外から見たイメージで作られている“観光地の日本”であって、“普通の日本”ではない。でも用宗には、“普通の日本”がありのままで残っています。それが“メッセージ”になるんです。観光や宿泊で訪れた人たちが、いずれは他の地域から移住して欲しいとも思っています。それが究極の賑わいづくりですから。